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循環器病対策基本法とACS再発予防の方向性 1

2019年12月に脳卒中・循環器病対策基本法が施行され、我が国における循環器疾患対策が大きく動き出そうとしています。循環器疾患対策をめぐる現状や今後あるべき方向性、循環器疾患治療において重要なポイントの一つとなる急性冠症候群(ACS)の再発予防と治療のあり方について、順天堂大学 保健医療学部 学部長 代田 浩之 先生にお話を伺いました。

順天堂大学
保健医療学部 学部長
代田 浩之 先生

基本法確立で急性期治療の均てん化が加速

――脳卒中・循環器病対策基本法(以下、基本法)が施行された意義についてどのように受け止めていますか。

同法をめぐる議論は、2006年に制定されたがん対策基本法と比較される形で行われてきました。がん診療のシステムががん対策基本法によって大きく進歩した一方で、脳卒中・循環器病領域については、日本人の死因の2位(心疾患)と4位(脳血管疾患)、救急の15%、医療費の20%、要介護者の2割を占めているにもかかわらず、予防も診療も研究も十分にシステム化されてこなかったと言えます。基本法が施行され、今後基本計画が定まり一体的な取り組みが始まることで、一般への啓発活動がよりしっかりと行われ、評価システムも確立していくものと考えています。治療では、対象とする3疾患である脳卒中・心不全・血管病の急性期治療の均てん化が進むことが期待されています。専門医育成のサポートや、救急から入院、加療、リハビリテーションに至る一連のシステムづくりも大きく進展するでしょう。

――10月27日に循環器病対策推進基本計画が閣議決定されました。今後各地でどのような動きが起こってくるのでしょうか。また、実際の取り組みに至るまでにどのようなハードルがありますか。

都道府県ごとに協議会をつくり、地域の事情に合わせたシステムを構築し、主体性を持って具体的な施策をまとめていくことになろうかと思います。一番の課題は予算立てです。それから、各学会で持っている患者さんの教育システム、例えば日本循環器学会の心不全療養指導士や、日本高血圧学会などの高血圧・循環器病予防療養指導士といった各種認定制度もうまく活用しながら進めていく必要があります。一方で、国は地域包括ケアシステムの実現を目指していますが、特に心不全の在宅医療やリハビリテーションのあり方は、個々の地域の事情によって異なってくるでしょう。基本法は、まず3年を目標にして6年ごとに見直していくと記載されています。PDCAサイクルを回し、その都度課題を見つけ修正していくことが重要です。

デジタルヘルスを活用した再発予防が進む

――ACS再発予防の重要性についてご意見を伺えますか。

基本法に挙げられた疾患の中で、ACSは比較的よく知られたものだろうと思います。ACSの特徴は、やはり再発しやすいということです。中でも発症後1年あたりまでの再発率が極めて高く、私たちが報告したPACIFIC(急性冠症候群患者におけるアテローム血栓性イベントの発症率に関する前向き観察研究)を見ても、ACS患者の心血管イベント再発率は1年間で約5%でした1。再発予防は、患者さんのQOLも含めた予後のために極めて重要と言えます。

実際の予防対策としては、日本でもすでにエビデンスが確立されています。抗血小板薬の使用や脂質管理、特にLDLコレステロール管理が重要です。生命予後の観点からは血圧管理も重要です。禁煙は言うまでもありません。運動療法を主体とした心臓リハビリテーションにより虚血性心疾患患者の総死亡率が通常治療と比較して20%、心死亡率が26%低下することもわかっています2。こうしたポイントをそれぞれ押さえていく必要があります。

――循環器疾患の発症予防において、新型コロナウイルス感染症はどのような影響を及ぼしているでしょうか。

少なくとも現時点ではwithコロナの生活を念頭に、ACSだけでなくさまざまな疾患の発症予防を考えていく必要があります。今後、遠隔診療でバイオマーカーや診察のデータをとれるシステム作りや、デジタルヘルスの上でのパーソナルヘルスレコード(PHR)の活用も進んでいくでしょう。画像分析もAIによって急速に進歩しています。スマートホームやホームホスタピリゼーションまで見据え、ここ数年が大きな変革期になっていくと思います。
特にPHRを自治体がどのように活用していくかは大きなポイントです。循環器疾患だけでなく生活習慣病全般において、個人が自身の健康データを把握し生活の改善にどうつなげていくか。PHRを自動的に蓄積する仕組みやマイナンバーとの紐付けなども今後の検討事項と言えるでしょう。

――患者さんにACSの再発予防の重要性を理解していただくにはどのような方法が有効でしょうか。

総じてご高齢の方に対しては必ずしも十分な理解を得られていない現状があると言えるでしょう。これは主治医や循環器専門医の責任でもありますが、先ほど触れた教育システムがあれば理解も進んでいくと思います。さまざまなリスクファクターがありますが、タバコや高血圧については理解されやすい一方で、例えばLDLコレステロールについては、それがどのように悪影響を及ぼすか、十分に理解されていない方も多いように思います。

――その他、ACSの再発予防の施策としてどのようなことが考えられますか。

治療に関するデータの活用と成績評価の仕組みは、極めて重要です。例えば、心筋梗塞の発症率は全国的にとらえられていないという現実があり、ナショナルデータベースの整備が急がれます。基本法によって学会を中心としたデータベース整備はさらに強化され、診療実態や患者さんの状態、予後がより明確に把握できるようになると期待しています。リスクファクターのコントロールや評価もできるようになれば、次の戦略にも応用できます。

――ACS再発予防のために製薬企業に期待することは。

アムジェンがスポンサーしたThe Economist Intelligence Unit(EIU)レポート「高まる二次予防の重要性:アジアにおける心疾患医療の現状・課題」は大変興味深い取り組みだと思いました。社会の共通課題を解決するためにアカデミックかつ国際的な活動を支援していくことは、関係者にとって大いに刺激になると思います。また、新しいテクノロジーを活用した取り組みも進めてほしいと思います。国もデジタル庁を新設し、医療への支援体制も構築されていくと思いますが、この辺りこそ企業がノウハウを持つところ。ぜひサポートしながら産官学連携で新しいシステムづくりを推進してほしいと思います。

※EIUレポートについてはこちらをご覧ください。

REFERENCE:

  1. Circ J 2013; 77: 934–943
  2. Am J Med 2004; 116: 682-692.