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がんと共に自分らしく生きるために
~ “味方”を増やし、“見方”を広げる~

「肺がん患者同士が繋がって、正しい知識を深め、医療や社会を変える原動力にしたい―」。代表の長谷川 一男さんの強い思いから2015年に設立されたNPO法人 肺がん患者の会 ワンステップ(https://www.lung-onestep.com)では、患者さん同士の交流会や、マンガ動画プロジェクトに代表される様々な疾患啓発活動のほか、患者さん向けのセミナーを定期的に開催しています。このセミナーの趣旨に「To serve patients-患者さんのために、今できるすべてを」のミッションを掲げるアムジェン株式会社も賛同し、3月26日に『いきる「みかた」を見つけるオンラインセミナー 大切なものは何ですか?~あなたの声を聴かせてください~』を共催しました。

近年、がんゲノム医療の進展により肺がん治療は急速に進歩し、個々の病態に合わせた複数の治療選択肢が登場してきています。一方、多くの患者さんが人生の長い期間をがんと共に生きるようになる中で、将来の変化に備え、患者さんを中心に家族、医療者が将来の医療やケアについて話し合いを重ね、患者さんの意思決定を支援するアドバンス・ケア・プランニング(ACP:Advance Care Planning)も行われるようになり、患者さんは以前にも増してがんの治療について考えるだけでなく、がんと共にどう生きたいのかということを問われるようになりました。

納得のいく医療を受けて、自分らしい生活を送る

このような状況にある肺がん患者さんに対して、演者の一人である守田 亮先生(JA秋田厚生連 秋田厚生医療センター 呼吸器内科 科長)は、個々の患者が“患者力”を向上させることの大切さを説きます。守田先生が考える患者力とは、自分の病気を医療者任せにすることなく、自分の事として受け止めて、人生を前向きに生きようとする患者さんの力や姿勢そのものです。

「しかし、がんと診断されて病気と向き合っておられる患者さんが、患者力を身に付けるのは大変なことです。私たち医療者が、患者さんの声に耳を傾け、患者さんが納得する医療を受けて、自分らしく生きる力を持てるようサポートしていきたいと思っています」(守田先生)守田先生は、看護師とともに作成した「ケア・プランニングシート」を使って、診察の中で患者さんの治療や人生に対する想いを汲み取っています。

JA秋田厚生連 秋田厚生医療センター
呼吸器内科
科長 守田 亮先生

「私たちは、個々の治療方法から期待される治療効果に、患者さんの価値観や生き方、希望を加味して、治療選択肢を提示しています。患者さんも、医療者に自分の意思をしっかりと伝え、自分の力で歩こうという気持ちになって欲しい。私たち医療者は、患者さんの手を引っ張ったり、後ろから押したりするのではなく、伴走者として患者さんの横に立って、一緒に歩いていきたいと思っています」

患者さん自らが声をあげ、医療者に“How”と“Why”を伝える

一方で、患者さんや家族はどこまで知識を身に付け、主体的に治療にかかわればよいのかという悩みも抱えています。参加者の一人は「患者の側から治療を提案するなど、患者力を付けすぎると、医師に嫌がられてしまうのではないかという不安がある」と打ち明けます。

演者の大野 智先生(島根大学医学部附属病院
臨床研究センター
センター長・教授)は、正確な情報を見極め、その情報を基に患者さんにとって納得のいく意思決定を行うためにも、患者さんには声を上げて欲しいと語ります。「患者力向上のために、自分の病気のことを、医者も顔負けという位に情報収集して勉強しなければならないのかというと、そうではありません。一人で悩まず、勇気を出して、主治医に声をあげてください。“How”と“Why”を意識して、自分がどうなりたいのか、なぜそう考えたのかを、主治医に伝えることが重要です」(大野先生)

「いわゆる“根拠に基づく医療”(EBM:Evidence Based Medicine)というのは、言い換えれば“情報の見極め方と向き合い方”だと思います。不確実性のある医療において、必ずしも科学的根拠だけで個々の治療方針は決まりません。科学的根拠を判断材料の一つにしながらも、患者さんの生活環境、患者さんの価値観、医療者の専門性といった4つの要素をバランス良く統合し、より良い患者ケアに向けた意思決定を行うための行動指針とするのが、EBMの本質です」

島根大学医学部附属病院
臨床研究センター
センター長・教授 大野 智先生

“みんなで話し合う”ことが、“納得”につながる

それは人生の最期の場面についても話し合うACPでも同じです。演者の谷野 裕一先生(和歌山県立医科大学附属病院 臨床研究センター 准教授)は、誰にでも訪れる人生の最期の時から考えて、良い人生だったと思い起こせる人生を送るためにも、“みんなで話し合う”“納得する”というプロセスが重要であることを語りました。

和歌山県立医科大学附属病院
臨床研究センター
准教授 谷野 裕一先生

「最後に“いい人生だった”と満足する人もいれば“どうしてこんなことになったのか”と後悔する人もいる。その違いは、本人が自分の人生に対して納得できているかどうかだと思います。がんと共に歩む人生には、道しるべがありません。人生の最期の時にどうしたいのか、どうなりたいのか、そのためにはその時その時でどういう選択をすれば良いのか。初めから医療者や家族と話し合って、よく考えることが大切だと思います」

どの演者にも共通していたのは、主治医をはじめ、看護師、薬剤師、管理栄養士、医療ソーシャルワーカー、もちろん家族など、患者の治療と人生にかかわってくれる“味方”を一人でも多く増やし、がんを抱えていても自分らしく生きていくための物事の新しい“見方”を身に付け、視野を広げていくことが大切であるというアドバイスでした。

*セミナーの録画は後日ワンステップのYouTubeチャネルでオンデマンド配信される予定です。

【司会】
NPO法人 肺がん患者の会 ワンステップ 理事長 長谷川一男さん
1971年、東京都生まれ。喫煙歴なしのステージ4の肺がん患者。2010年に発症。15年4月、肺がん患者の会ワンステップを設立。同年11月、日本肺がん患者連絡会を結成。16年にその闘病生活を追ったテレビドキュメンタリー番組が放映され、世界肺癌学会からペイシェントアドボカシーアワードを受賞。

参考URL:
NPO法人 肺がん患者の会 ワンステップ

【演者(登壇順)】
JA秋田厚生連 秋田厚生医療センター 呼吸器内科 科長 守田 亮先生
2006年、秋田大学医学部医学科卒業。08年、秋田大学医学部附属病院呼吸器内科医員。秋田赤十字病院副部長、国立がん研究センター中央病院呼吸器内科を経て、09年より現職。胸部悪性腫瘍を専門とし、治験にも積極的に取り組む。

参考URL:
JA秋田厚生連 秋田厚生医療センター

島根大学医学部附属病院 臨床研究センター センター長・教授 大野 智先生
1998年、島根医科大学医学部医学科卒業。金沢大学、東京女子医科大学、帝京大学、大阪大学等を経て、2018年より現職。補完代替医療や健康食品にも造詣が深く、厚生労働省「『統合医療』情報発信サイト」の作成にも従事。

参考URL:
国立大学法人 島根大学
厚生労働省「統合医療」情報発信サイト[eJIM]

和歌山県立医科大学附属病院 臨床研究センター 准教授 谷野 裕一先生
1987年、和歌山県立医科大学医学部医学科卒業。同大学胸部外科に入局。岸和田徳洲会病院、橋本市民病院、公立那賀病院で乳腺外科を立ち上げた他、2010年にNPO法人いきいき和歌山がんサポートを設立し、理事長に就任。和歌山県がん対策推進条例の策定など、患者支援体制の整備にも注力。22年より現職。

参考URL:
科学研究費助成事業データベース