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エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)の『高まる二次予防の重要性:アジアにおける心血管疾患医療の現状・課題』がこのほど公表されました。アムジェンの協賛を受けて制作された本報告書は『The Cost of Silence: Cardiovascular Disease in Asia 』(2018)に続くシリーズ第2弾です。アジアの専門家15名に詳細な聞き取り調査を実施し、心血管疾患(cardiovascular disease = CVD)の二次予防に関するスコアカードを作成。CVDの二次予防がアジア太平洋地域内8カ国(日本・オーストラリア・中国・香港・シンガポール・韓国・台湾・タイ)の医療体制にもたらす負担と、政策的対応について分析評価を行いました。今回は、10回シリーズの第3回目として、「CVD再発がもたらす医療への負担/再発がもたらす人的・経済コスト」について、ご紹介します。
CVDの再発がもたらす医療への負担
国立シンガポール大学心臓センター 心臓リハビリセンターのディレクター Tee Joo Yeo氏は、急性心筋梗塞・脳卒中患者の生存率向上は、同時に再発リスクへの対応の必要性を示唆すると指摘します。
CVDの発症によって再発リスクが高まることは、数多くの研究によって示されています。リスク上昇の度合いは国(あるいは研究結果)によって異なりますが、多くの研究ではCVD発症後1年以内の再発可能性は5~15%とされています1。急性心筋梗塞に関しても顕著にリスク上昇が見られます。例えばシンガポールで行われた患者レジストリの検証によると、1年以内の再発リスクは約7%2。一方、西オーストラリア州の未公開レジストリ・データによると、急性冠症候群(心筋梗塞、不安定狭心症を含む)患者が1年以内に再入院する確率は57%に上ります3。
急性心筋梗塞・脳卒中の再発リスクは発症後最初の1年が最も高いものの、その後何年も高止まりが継続します4。脳卒中の再発リスクに関するある文献レビューは、数十年遡ってデータ検証を行った研究を紹介し、5年後の危険度が1年後よりも倍増したという結果を明らかにしています5。2011年に日本で発表された研究も、1年後、3年後のリスクがそれぞれ19%、29%というデータを示しています6。
一方韓国では、近年アジアで見られるトレンドを最も詳細に捉えた医療保険データの分析研究が行われました。同研究によると、急性心筋梗塞、脳卒中における1度目、2度目の発症時期の中間値は共に約2年でした。つまり検証時期を1年に限定すれば、CVDの再発リスクを過小評価してしまう恐れがあります。また、急性心筋梗塞患者が今後10年間で直面する累積再発率は21%、脳卒中のリスクはさらに高い25%に達します。一方、急性脳卒中では累積再発率が19%、心筋梗塞のリスクは23%に上るとされています7。
時間の経過と共に再発率を大きく左右するのは二次治療の質です。急性心筋梗塞の退院患者4,001名を対象とした中国の調査によると、質の高い投薬治療を継続的に受けたグループでは、退院後12カ月以内に心筋梗塞、脳卒中、心不全を再発あるいは死亡する割合がわずか7%にとどまりました。一方、治療を受けなかった患者ではその割合が25%に達しています8。
CVD患者が過去にないペースで増加する一方、急性心筋梗塞・脳卒中患者の生存率も向上しています。この現状は深刻な事態であると同時に、患者さんのケア体制向上のための重要な機会といえるでしょう。
再発がもたらす人的・経済コスト
EIUが昨年作成した『Cost of Silence』シリーズの第1回報告書では、CVDがもたらす経済的コストを試算すべく詳細にわたる文献リサーチを行い、直接的コスト(入院・投薬・リハビリ・外来診療)と間接的コスト(生産性低下・インフォーマルケア・早期退職や罹病に伴う損失など)を検証しました。その結果、全ての対象国で数十億ドル規模(2016年時点)の負担が生じていることがわかりました。全対象国の平均値は GDPの0.9%に達しています。
CVD発症が患者の生活にもたらすコストや国レベルの死亡率・罹患率への影響を正確に把握するのは困難ですが、再発が深刻な負担となることは明らかです。例えば、シンガポール国立心筋梗塞レジストリ(The Singapore Myocardial Infarction Registry)が2016年に発表した報告書によると、同年心筋梗塞を発症した患者の33.4%は再発あるいは冠動脈バイパス手術(あるいは血行再建手術)の経験者です9。また台湾の患者レジストリをもとに同年作成された分析レポートによると、急性心不全で来院した患者の25%は過去に1度以上心筋梗塞を経験しています10。心筋梗塞・脳卒中発症者の4分の1から3分の1は再発患者です。これは人口全体に占める心筋梗塞・脳卒中患者と比較しても極めて高い数字です。
CVDの人的・経済的コストを軽減する手段として重要となるのが二次予防です。再発は、死亡率の増加11や直接的・間接的な経済的負担などのダメージを増幅させます。
今回の調査対象国では、若年層の患者が増加しているケースも見られます。香港心臓専科学院 学長 Ngai Chan氏によると、1995年時点で香港の心筋梗塞患者に占める50歳以下の割合はわずか8%でしたが、2010年までに17%へと上昇しています。また台湾の衛生福利部によると、同国でも55歳以下の患者が2009〜2015年にかけて30%増加しました12。台湾の高雄市立大同医院の心疾患専門医Gary Chih-Sheng Chu氏がその背景として挙げるのは、喫煙者の増加、家族性高コレステロール血症、食習慣の欧米化、運動不足などです。
シンガポール国立大学心臓センターのアソシエイト・コンサルタントAudry Shan Yee Lee氏によると、同国でも心不全患者の平均年齢はヨーロッパ13よりも10歳若いといいます。質の高いケアを提供しなければ、若年患者がもたらす間接的経済コストは高齢患者をはるかに上回るものになるでしょう。現役世代(45〜64歳)の急性心筋梗塞がもたらす間接的コストをモデル分析したオーストラリアの研究によると、収入減少・医療厚生支出の増加・所得税収の低下などによって2015年に生じたGDP損失は7億5500万ドル(約805億円)14。2030年までに10億8200万ドル(約1154億円)に達すると予測されています。
REFERENCE:
エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)の『高まる二次予防の重要性:アジアにおける心血管疾患医療の現状・課題』の全編はこちらからご覧ください。